生活が困窮していれば、食べていくために必死で仕事に励む。
一方で、生活に多少余裕がでてくれば、やりがいや働きがいに関心が向いてくる。
これら人間の欲求、実は、無秩序に存在しているのではないことをご存知でしょうか?
人間の欲求には5つの階層(段階)が存在し、低次の欲求から高次の欲求へと欲求が順番に顕在化していくという『マーズローの欲求5階層』説
この理論では、人間の欲求を5つの段階に分類し、ピラミッド状の階層構造で表現しています。
欲求の階層(段階)を下から順番に充足させていくことで、最終的に『理想の自分(自己実現)』に至るというのがこの欲求5階層説。個人が自己実現に向かって成長していく過程を説明しています。
この理論は、人間の基本的な欲求から高次の欲求まで幅広く網羅しているため、心理学の範囲を超え、経営学や教育学などさまざまな領域に影響を与えています。
私たちの行動や感情の背景にある『動機(欲求)』が生じるメカニズムを説明するこの理論。
自己啓発はもちろんのこと、キャリア開発や職場環境の改善などさまざまなシーンでの問題解決に活用することできます。
例えば、
最近、「やりがい」や「楽しさ」を感じなくなったなぁ…
転職先を選ぶ基準として、何を重要視すべきか…
キャリアや人生の方向性に迷っていたり、
仕事や学業で日々のモチベーション低下に悩んでいたり…
そんなときは、これからご紹介する『マーズローの欲求5階層』を活用して、
まず、自分には今どのような欲求があるのか「現在地(現在の階層)」を把握することから始めてみましょう。
そして、自分が求めているものが何かを明確に理解し、適切な目標を設定することで、着実にステップアップすることができます。
それでは、さっそく解説していきます!
【前提知識】5階層ピラミッドの頂点!『自己実現』とは?
では、私たちが目指すべき『自己実現』とは一体どのような状態のことをいうのでしょうか?
<自己実現の定義>
- 他の誰にも成し遂げることができないようなことを自分が成し遂げたい、あるいは「自分らしく」ありのままに生きていきたいという欲求のこと
- 自己のもつさまざまな能力や可能性を追求し、最大限に実現しようとすること
人間の内部には、進歩や成長に向けて自己(自分らしさ)を実現化しようとする欲求が存在しているといいます。
人間の欲求『マーズローの欲求5階層』を詳しく解説!
それでは、本題の「マーズローの欲求5階層」を詳しく説明していきます。
「マーズローの欲求5階層」とは、アメリカの心理学者であるアブラハム・マーズロー(Abraham Maslow)が提唱した、人間の欲求が生じるメカニズムを階層化した理論で、
「人間の欲求は、無秩序に存在しているのではなく、『一定の順序』ないし『階層性』をなしている」というもの。
さらに、より高次の欲求が顕在化する(現れる)ためには、それよりも低次の欲求が満たされている必要があります。
つまり、下位の欲求から順に満たしていくことが重要であり、基盤となる欲求が満たされていない状態で上位の欲求に焦点を当ててもその効果は限定的なものになってしまいます。
では、その順序と階層はどのような構造になっているのでしょうか?
それを示すのが下記の5階層ピラミッドです。
5段階の欲求はさらに、欲求の対象が「内側」にあるか「外側」にあるかという観点で、
内的欲求と外的欲求とに分類されます。
外的欲求:
自分の外部環境を満たしたい、満たされたいという欲求
「①生理的欲求」「②安全欲求」「③愛情・所属欲求」の3つが外的欲求
内的欲求:
自分の内面を満たしたいという欲求
「④尊厳(承認)欲求」「⑤自己実現欲求」の2つが内的欲求
人間は外的欲求が満たされると、徐々に欲求が内側(自分の内面)に向いてくるとされています。
つまり、基本的かつ社会的な欲求が満たされることで、より高次の欲求(尊厳・承認や自己実現)を求めるようになるということ。
それでは、一番下の階層から詳しくみていきましょう。
生理的欲求
①「生理的欲求」とは、生きるために必要な最も基本的な欲求です。
例えば、飲食、睡眠、性、排泄などに関わる欲求がこれに当たります。
この欲求は、5階層ピラミッドの最下層に位置し、自己実現へ向かうための重要な土台となります。
- 貧困により、十分な食料が摂取できない状態
- 過度の労働や学業により十分な睡眠が確保できない状態
このような状態は、生理的欲求が満たされていない状態といえるでしょう。
安全欲求
②「安全欲求」とは、危険や不確実な状況を避けようとする欲求です。
心身の健康や安心・安全を確保して暮らしたいと願うこともこの欲求に当たります。
このごく自然な欲求ですが、現代ではさまざまな環境でこの安全欲求を満たすことが難しい場合もあります。
例えば、
- 紛争や戦争による危険や不安な状況下での生活
- 経済的安定や、雇用の維持が確保されていない状況
- 安全管理がなされていない危険な現場での作業
- ハラスメントを受けている状況
このような状態では、安全欲求は満たされているとはいえません。
愛情・所属欲求
③「愛情・所属欲求」とは、「社会的欲求」「親和的欲求」ともいわれています。
この欲求は、他人から愛されることを求め、自己が関わるさまざまな集団に所属し、その集団の一員として認められたいと願う、人間関係に関わる欲求のことをいいます。
集団の例としては以下のものが挙げられます
- 家族
- 友人関係
- 企業や学校
- 地域社会
- 部活やサークル
- ネットコミュニティ
また、人は何らかの社会的集団に所属しており、これらの集団に居場所を求めます。
しかし、この欲求が満たされないとき、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなるといわれています。
尊厳(承認)欲求
④「尊厳(承認)欲求」とは、他人から認められて尊厳を得ることや、自律的に行動することを求める欲求です。
褒めてもらいたい、特別な存在だと思われたい、共感してもらいたい、高く評価してもらいたい、など私たちが普段生活するなかで、一番身近に感じやすい欲求なのではないでしょうか。
尊厳(承認)欲求の例としては、
- SNSで「いいね!」がたくさんほしい
- 自分の話を聞いてほしい、頑張りを褒めてほしい
- 自分の活躍を多くの人に見てもらいたい
- 他人よりも自分の方が優れていると認識してほしい
などがあり、仕事の成果に対する適切な評価と表彰制度というのもこの尊厳(承認)欲求の一つといえます。
自己実現欲求
⑤「自己実現欲求」とは、5階層ピラミッドの最上位に位置し、自己のもつ可能性を追い求め、能力を最大限に発揮したいという欲求です。
また、自己のあるべき理想的な存在形態の実現に近づこうと願う欲求でもあります。
この自己実現欲求は、言い換えれば、「成長への欲求」であり、この欲求は充足されたあとでもその重要度は依然として減少しません。
つまり、この階層に到達しても行動は停止せず、より一層の充足を求めるのがこの欲求の特徴です。
自己実現欲求の方向性や規模は人それぞれであり、例えば、
- (ビジネスで)独立して事業を興したい
- 自分の適性にあったポジションで仕事をしたい
- 田舎でスローライフを楽しみたい
など、自分らしく生きることを願うことでもあります。
最終ステージのその先・・・『自己超越欲求』
マーズローの欲求階層は、一般的には5階層までといわれています。
しかし、マーズローは晩年、5番目の「自己実現欲求」のさらにその上の階層に『自己超越欲求』があると明かしています。
この自己超越欲求とは、見返りは一切求めず、自分のエゴもなく、ただ目的にのみ没頭し、何らかの課題や使命、大切な仕事や社会に貢献したいという欲求だといいます。
例えば、
- 世界から戦争や紛争をなくしたい
- ボランティア活動に参加して社会をより良くしたい
- 自分の資産を投げ売ってでも困っている人を助けたい
など、慈善活動、弱者救済、寛容な態度などの利他的な行動として表れ、自分自身を超えて他者や社会全体の利益を追求する欲求といえます。
『欲求5階層』の凡庸性が高いといわれる3つの理由
マズローの欲求5階層は、心理学の理論でありながら、個人のライフステージだけでなく、医療、教育、ビジネス、マーケティングなど、さまざまな分野で活用されています。
特に、ビジネスやマーケティングの分野での親和性が高く、
適切なアプローチや戦略を立てるために、消費者や顧客、従業員などの欲求を理解することは極めて重要です。
- 製品開発
- 広告・宣伝キャンペーン
- 職場環境の改善
- 指導や成長支援
など、多岐にわたり活用されています。
また、個人のライフステージと同様に、職場環境や組織の成長段階にも照らし合わせることができ、
現状を体系的に理解し適切な施策を講じれば、その職場や組織の持続的な成長と発展を促進する大きな手助けとなります。
では、なぜこのように凡庸性が高いのでしょうか?
理由としては、
1.人間の基本的な欲求を簡潔に説明
この理論では人間の欲求を「生理的欲求」から「自己実現」まで5段階に分類し、
シンプルかつ直感的に理解しやすい構造で説明しているため、さまざまな応用が可能
2.時代を超えた普遍性
テクノロジーが急速に進化しても、人間の根本的な欲求や心理は大きく変わるものではないため、
いつの時代でも活用することができる
3.文化的共感性
5つの欲求は、さまざまな背景をもつ文化を超えて多くの人間に共通する基本的なものであり、
グローバルな視点でも適用しやすい
などが挙げられます。
ただし、その一方で、このシンプルさに対する批判があるのも事実です。
・複雑な人間性を過度に単純にしている
・環境や状況による影響が十分に考慮されていない
・欲求の順序や優先順位は個人や文化で異なる可能性がある
などの指摘がされています。
これらの指摘を認識したうえで、個人の特性や状況に応じてこの理論を柔軟に解釈し、適用することが大切です。
『欲求5階層』の具体的な活用例
では、実際にどのような場面で活用できるのかを場面別、分野別に具体例をみていきましょう。
個人の成長とキャリア開発
自己分析やキャリアプランニングに活用する
- 現状分析:自分がどの欲求段階にいるかを把握し、次のステップを考える
- 目標設定:自己実現の欲求に向けて、具体的な目標を立てる
- スキル開発:各段階の欲求に応じた必要なスキルを特定し、習得を目指す
自分の人生の目的や意義を見出だせない、キャリアや人生の方向性について悩んでいるときなどに自己実現を目指す道筋を示してくれます。
- 現在の仕事や生活が自分のどの欲求を満たしているか、あるいは満たしていないかを分析する
- 自分が本当に求めているものが何かを明確にする
- キャリアチェンジを検討する際、その新しい職業が自分のどの欲求を満たすかを検討する指針とする
教育・指導
学習者や部下の成長を支援する際に、以下のように活用することができます。
- モチベーションの管理:上司や指導者が、部下や学習者の現在の欲求段階を理解し、次の段階へ進むための適切な動機づけ(目標設定)を行う
- 成長支援:低次の欲求から高次の欲求へと段階的に成長を促す
転職・求職活動
欲求5階層を活用して特定した、満たされていない欲求、目指したい理想の自分をもとに転職先を選ぶ際の基準を設定することができます。
例えば、
- 生理的欲求が満たされていない場合:ワークライフバランスの良い企業を探す
- 安全の欲求が満たされていない場合: 安定した経営基盤を持つ企業を探す
- 社会的欲求が満たされていない場合: 社内コミュニケーションが活発な企業を探す
- 承認欲求が満たされていない場合:評価制度が充実している企業を選ぶ
- 自己実現の欲求が満たされていない場合: キャリアアップの機会が豊富な企業を探す
などの選定基準が挙げられます。
組織マネージメント
経営者や人事担当者にとって、従業員の多様な欲求を理解し、それぞれの段階に応じた職場環境や待遇を提供することは重要です。
その手がかりとして、従業員のモチベーション向上や組織の活性化に活用することができます。
例えば、
- 金銭的報酬(生理的欲求)から自己実現の機会までさまざまな報酬制度を設計する
- 安全の欲求を満たす快適な職場づくり
- 社会的欲求を満たすための交流の機会を設ける
などの施策が考えられます。
マーケティング
消費者や顧客のニーズを深く理解し、効果的な戦略を立てる際に活用できます。
例えば、
- 顧客の欲求階層に基づいた製品開発
- ターゲットとなる顧客の欲求階層に応じた広告キャンペーン
- 各欲求階層別にグループ分けした顧客に対し、それぞれ適したアプローチをとる
などが考えられます。
ストレスや不安への対処
人間が不安を感じるとき、その不安の原因は「安全の欲求」が十分に満たされていないことがあります。
ストレスや不安の根源が、どの欲求の不足から生じているかを分析することで、そのストレスや不安を軽減し、メンタルヘルスの基盤を整えるのに役立ちます。
また、人間関係で生じる悩みやストレスに関しても、この理論は深い洞察を与えてくれます。
- 社会的欲求や承認欲求が満たされていないことが、人間関係の問題の根底にある可能性がある
- 自分や他者の行動の背景にある欲求を理解する
など、欲求5階層を自分の欲求に照らし合わせるように、他者に対しても照らし合わせることで相手とのより良いコミュニケーションが可能になると考えられています。
まとめ
この記事では、マーズローの欲求5階層の内容と活用方法を解説しました。
ポイントは以下のとおり
- 人間の基本的な欲求を5段階に分類
- 低次の欲求から高次の欲求へと段階的に欲求を満たすことにより最終的に自己実現へと至る
- 凡庸性が高く、個人のライフステージのみならずビジネスなどさまざまな分野で活用できる
- 私たちの行動や感情の背景にある欲求(動機)を理解するツール
考慮すべき理論の問題点はあるものの、このマーズローの欲求5階層を理解し、さまざまな場面に応じて柔軟に活用ですることで自分の夢や目標、自己実現への道筋が明確になってきます。
そして、より効果的に目標に向かって行動を起こすことができるのです。
それは、まさに「自分らしさ」「理想のあるべき姿」へのロードマップ。
人生の目的や意義を見出だせないと感じたとき、この欲求5階層はきっと道筋を示してくれるでしょう。
「自分らしく生きる」を具体化する第一歩として、このマーズローの欲求5階層を活用してみてはいかがでしょうか。
また、歩み始めたあとも、自己評価や方向性を確認するツールとして定期的に活用することをおすすめします。
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました!